葬儀に参列した帰り際、ご遺族から小さな手提げ袋を手渡されることがあります。これを、私たちは何と呼ぶでしょうか。つい、「葬儀のお土産」と言ってしまうことがあるかもしれません。しかし、この「土産」という言葉は、実は弔事の場には、あまりふさわしくありません。なぜなら、「土産」という言葉には、旅行や訪問先での楽しい思い出や、喜びを分かち合う記念品といった、明るく、ポジティブなニュアンスが強く含まれているからです。悲しみの中で行われる葬儀で渡される品物は、それとは全く異なる、深い意味合いを持っています。葬儀の場で参列者に渡される品物は、大きく分けて二つの種類があります。一つは「会葬御礼品(かいそうおんれいひん)」です。これは、お通夜や葬儀・告別式に、わざわざ足を運んでくださったことへの感謝の印として、香典の有無にかかわらず、参列者全員にお渡しするものです。もう一つが「香典返し(こうでんがえし)」です。こちらは、香典という形で金銭的なご厚志を寄せてくださった方々に対して、そのお心遣いへの感謝を表すためにお贈りする品物です。近年では、葬儀当日に香典返しをお渡しする「即日返し」も増えており、その場合は会葬御礼品と一緒にお渡しすることになります。これらの品物は、決して「記念品」や「土産」ではありません。その根底にあるのは、ご遺族からの「本日は、故人のために、お忙しい中ご会葬いただき、誠にありがとうございました」という、深い感謝の気持ちです。そして、香典返しには、さらに「皆様のお力添えのおかげをもちまして、滞りなく葬儀を終え、四十九日の忌明けを迎えることができました」という、儀式の無事終了と、忌明けの「報告」、そして社会生活への復帰を宣言する「けじめ」という意味合いも込められています。感謝と報告、そしてけじめ。これらの品物は、単なるモノではなく、故人が繋いでくれたご縁を、これからも大切にしていきたいと願う、ご遺族の誠実な心が込められた、大切な「返礼品」なのです。この言葉の背景にある意味を理解することで、私たちは、その小さな手提げ袋を、より深い敬意と感謝の念をもって、受け取ることができるでしょう。
「葬儀の土産」は正しい?弔いの場で渡される品物の意味