日本の葬儀は、主に「お通夜」と「葬儀・告別式」という、二つの主要な儀式によって構成されています。この二つの儀式は、それぞれ夜と昼という、対照的な時間帯に行われますが、その違いは単に時間だけではありません。その由来、目的、そして参列者の構成において、明確な役割分担と、異なる意味合いを持っているのです。まず、夜に行われる「お通夜」は、本来、ごく近しい親族のみが集い、夜通し故人に付き添い、その魂を守るという、非常にプライベートで、内輪の儀式でした。しかし、現代ではその意味合いが変化し、日中の葬儀・告別式には仕事などで参列できない一般の弔問客が、故人と最後のお別れをするための、社会的な「窓口」としての役割を色濃く持つようになりました。そのため、お通夜は、より多くの人が訪れる、開かれた儀式としての性格を帯びています。一方、翌日の昼間に行われる「葬儀・告別式」は、より格式の高い、公式な儀式と位置づけられています。前半の「葬儀」は、僧侶が中心となって、故人を仏の世界へと導くための、宗教的な儀礼です。そして、後半の「告別式」は、喪主が中心となって、社会に対して故人の死を正式に告げ、友人代表などによる弔辞を通じて、その人生を総括し、最後のお別れをする、社会的な儀礼です。参列者の構成も、お通夜が友人・知人や会社関係者といった一般参列者が中心となるのに対し、葬儀・告別式は、親族や特に縁の深かった人々が中心となり、より厳粛な雰囲気の中で執り行われます。夜のお通夜が、故人との「別れを惜しむ」ための、情緒的で温かい時間であるとすれば、昼の葬儀・告別式は、故人の死を社会的に確定させ、その魂を正式に送り出すための、公的で荘厳な時間と言えるでしょう。この夜と昼、二つの異なる性質を持つ儀式を経て、私たちは、故人の死という、個人的な出来事と、社会的な出来事の両方を、段階的に受け入れ、心に刻んでいくのです。