葬儀が終わった後、ご遺族は、深い悲しみの中で、香典帳の整理、住所録の確認、品物の選定と手配、そして発送作業といった、香典返しのための、膨大で、そして煩雑な作業に追われることになります。この、葬儀後のご遺族の負担を、少しでも軽減するために、近年、急速に普及しているのが、「即日返し(そくじつがえし)」または「当日返し」と呼ばれるシステムです。これは、その名の通り、お通夜や葬儀・告別式の当日に、受付で香典をいただいた、その場で、香典返しの品物をお渡しする方法です。具体的には、あらかじめ2,000円から3,000円程度の、どなたにでもお渡しできるような返礼品(お茶やコーヒー、お菓子などが一般的)を、一定数用意しておきます。そして、弔問客が受付で香典を渡すと、その場で、会葬御礼品と、この即日返しの品物を、一つの手提げ袋に入れてお渡しする、という流れになります。この即日返しの最大のメリットは、言うまでもなく、「ご遺族側の負担の大幅な軽減」です。葬儀後の、最も心身ともに疲弊している時期に、住所の確認や発送の手配といった、煩雑な作業から解放されることは、ご遺族が、純粋に故人を偲び、自身の心を癒やすための時間を、少しでも多く確保することに繋がります。また、香典をくださった方、全員に、その場でお返しができるため、「お返し漏れ」といったミスを防ぐことができる、という実務的な利点もあります。しかし、この便利なシステムには、注意すべきデメリットも存在します。それは、「いただいた香典の金額に関わらず、全員に同じ品物をお渡しする」という点です。もし、親族や、故人の上司などから、5万円、10万円といった、高額な香典をいただいた場合、2,000円程度の品物だけでは、明らかに「半返し」の原則から外れてしまいます。このような場合は、その方に対しては、後日、忌明けの時期などに、いただいた金額に見合った、差額分の品物を、改めて「後返し」としてお贈りするのが、非常に丁寧で、心のこもったマナーとなります。即日返しは、非常に合理的で、現代的なシステムですが、その運用には、相手への感謝の気持ちを忘れない、柔軟な配慮が求められるのです。