母の葬儀を執り行うことになった時、私は、深い悲しみと共に、一つの、小さな決意を固めていました。それは、葬儀で参列者の皆様にお渡しする返礼品を、ありきたりのものではなく、母の人生を、そして母の温かさを感じてもらえるような、特別なものにしたい、という思いでした。母は、生前、お茶が本当に好きな人でした。お客様が来ると、いつも嬉しそうに、とっておきの茶葉を茶筒から取り出し、丁寧にお茶を淹れてくれました。その湯気の向こうにある、母の穏やかな笑顔は、私の心の中に、今も鮮明に焼き付いています。私にとって、お茶の香りは、母の愛情そのものだったのです。私は、葬儀社の担当者の方に、その思いを打ち明けました。「香典返しとして、母が好きだった、地元の銘茶をお渡しすることはできないでしょうか」。担当者の方は、私の話を、親身になって聞いてくださり、「素晴らしいご供養ですね。すぐに手配しましょう」と、快く引き受けてくださいました。数日後、見本として届いたのは、母が生前、好んで飲んでいた、深緑色の美しい茶葉でした。私たちは、そのお茶を、落ち着いた和紙の袋に入れ、挨拶状を添えることにしました。その挨拶状に、私は、拙いながらも、こんな一文を加えました。「ささやかではございますが、母が生前愛しておりました地元の銘茶をお届けいたしました。お召し上がりの際に、ほんのひとときでも、母の笑顔を思い出していただければ、幸いに存じます」。葬儀が終わり、忌明けの時期に、そのお茶を発送しました。すると、数日後から、親戚や、母の友人たちから、次々と電話がかかってきました。「あなたのお母様らしい、本当に素敵なお返しね」「あのお茶をいただきながら、久しぶりに、お母様との楽しかった思い出話を、主人としたのよ」。その温かい言葉の数々に、私は、涙が止まりませんでした。返礼品を選ぶという行為は、私にとって、単なる義務的な作業ではありませんでした。それは、母の人生を、もう一度、深く見つめ直し、その思い出を、母を愛してくれた多くの人々と分かち合うための、最後の、そして最も温かい、母との共同作業の時間となったのです。
母が愛したお茶を返礼品にした日